大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)2645号 判決

被告人 福島忠夫

〔抄 録〕

先ず、職権をもつて調査するに、原審第三回公判調書によれば被告人は、検察官の本件起訴状及び追起訴状の朗読が終つた後被告事件について陳述する機会を与えられ、右各起訴状記載の事実はそのとおり相違なく、自己の刑事責任はこれを認める旨陳述し、右起訴状及び追起訴状に記載された訴因全部につき有罪である旨を陳述したので、原審裁判所は本件につき簡易公判手続によつて審判する旨の決定をなし、ついでこの決定に基いて検察官提出の各証拠書類につき、被告人及び弁護人の意見を聴くことなく、直ちに証拠調を施行した後審理を続行し、原審第四回公判廷においては、検察官の事実及び法律の適用についての意見の陳述、弁護人及び被告人の最終陳述があつた後、直ちに判決の宣告がなされたこと、並びに原判決は本件起訴状に記載された公訴事実並びに追起訴状に記載された第一及び第二の公訴事実についてはそのままこれを認め、追起訴状記載の第三の公訴事実、すなわち、被告人は同年(昭和三十二年)六月十四日頃東京都墨田区東駒形三丁目十一番地新井清一方に於て同人所有の磨鉄板百九十枚(時価合計十四万円相当)を窃取したものである、との事実については、原判決事実摘示第二の3として、被告人は同年(昭和三十二年)六月十四日午前十時頃江東区深川枝川町二丁目七番地横田商事において新井清一所有、深津運送店管理に係る磨鉄板百九十枚(時価十四万円相当)を窃取したものである、との事実を認定したことは記録上明らかなところである。すなわち、原審は、右追起訴状に記載された公訴事実中第三の訴因については、被告人の原審公判廷における事実はそのとおり相違ない旨の供述をも措信せず、また被告人の司法警察員に対する昭和三十二年七月三十一日付供述調書並びに検察官に対する同年八月十三日付供述調書中の同趣旨の供述をも採用せず、専ら福岡正憲提出の被害届(但しその内容は横領被害届)、同人の司法警察員に対する供述調書、深津佳美、久保綱男提出の各事実答申書及び中山大治郎提出の買取事実答申書を綜合して前記原判決摘示の第二の3の事実を認定しているのである。しかしながら、右に掲げた福岡正憲提出の被害届以下の証拠によつては必ずしも原判示のごとき事実は明確とはいい難いのであつて、殊に当審における被告人質問の結果に徴すれば被告人はかねて本件のごとき機会を狙つていたものであり、その所為は或は詐欺若しくは横領に該当するとも解せられ、少くとも原判決の認定とは別異の事実が窺われるのであつて、本件についてはなお審理を尽す要があるものといわなければならない。しこうして、原審は前記のごとく、被告人の刑事訴訟法第二百九十一条第二項の手続に際してなした、追起訴状に記載された第三の訴因について事実はそのとおり相違ないとの旨の陳述がその後の証拠調の結果に照し措信し難きものとなり、したがつて、右追起訴状に記載された訴因のとおりの事実が認め難いというのであり、しかも右の訴因については、前記のごとく、原判決の掲げた証拠によつては必ずしも原判決認定の事実は明確ではなく、当審における被告人の供述に徴しても、明らかなように、なお審理を尽す要があるものというべきであるから、かかる場合には右訴因に関する限り簡易公判手続によることが相当でないものと認めてさきになした簡易公判手続によつて審判する旨の決定を取り消し、更に通常の手続に従つて審理を尽すのが相当であるといわなければならない。然るに、原審がこの点を看過し、右の訴因につき、簡易公判手続によつて審判する旨の決定を取り消すことなく、そのまま審理判決したのは、すなわち、刑事訴訟法第二百九十一条の三の規定に違反するものであつて、この訴訟手続の違反が判決に影響を及ぼすことは明らかなところであるから、原判決はこの点において全部破棄を免れない。

(坂井 山本長 荒川)

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